居心地の良い場所

居心地の良い場所
どうも落ち着かない。あの瑞樹と言う娘の顔を見ると何かが頭の中に浮かびそうになる。だがそれが何なのか分らない。ただそれは智代が今まで一度も感じた事が無いような奇妙な感覚であった。
 智代は時々あのアトリエに入って紗江子の最期の姿を思い出しては悦に入ったりする。
この部屋は智代にとっては居心地の良い場所であった。それに紗江子が死んで以来鍵が掛けられて誰も入ってこない。それでも智代は自由に出入りできるのであるが別段それを不思議とも思わなかった。もうずっと、どこにだって自由に動けるのでそれが当たり前になっていた。但し、この屋敷の中に限られてはいたが。もし外に出られるならずっと幸太郎の傍にいるのにと思うのであるがその事ももうどこか諦めてしまっていて外へ出ようと言う試みすらしなくなっていた。それにしてもあんなに簡単に紗江子が消えてくれるとは思わなかった。もう何年も前の事なのに時間の感覚のない智代にはつい昨日の事のように感じられる。あの時の事を思い出す度に智代は胸の使えが落ちるような気がする。あれ以来、この部屋だけどこか空気が違うような感じがする。冷たくて陰湿な空気がいつもこの部屋の中を漂っている。それが智代にとっては居心地が良い。智代の中の思いと協調している様な気がする。
 ところが夏になって瑞希がずっとこの家に居る様になった。瑞希がこの家の中に居ると感じるだけで智代はなんとくざわつく。この感覚は何なのだろう。智代は本能的に出来るだけ近づかないようにした。
 庭でガサガサとする音に智代は屋根裏から庭を見下ろした。そこには真理子たち三人がバラを植え直していた。紗江子が居なくなってすっかり荒れ果てていたバラである。
(あんなもの、放っておけば良いものを。)
バラなど植えても腹の足しにもなるまいにと思う。そこに置かれてあるブランコもすっかり錆び付いてきている。あれは確か百合香が幼い頃に幸太郎が買ったものである。その横に佇加州健身中心んでいる杏奈を見て智代はおやっと思った。その姿が誰かとダブる。何かが頭の中を走り抜ける。ブランコに乗っている親子の姿が見える。その子の首を絞める女の姿――百合香だ。
(ああ、そうか。)
智代にはその子供が杏奈である事が分った。
(あれは百合香の娘か。)


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